アゴタ・クリストフ 「悪童日記」

無差別に本に対しての感想的なモンを書いてみたい!、っで本ブログをはじめます。
最初はアゴタ・クリストフ 「悪童日記」。
ずっと好き。あの双子が夢にまで出てきます。
特に一作目の「悪童日記」。


ネット的なもの(現実から遊離したところで神経症的で過剰反応で他者に敏感すぎるところ)とは対極な戦争の実体験を見事にフィクションに昇華した文学だ。作者のとっては母国語じゃない言語だからか、言葉に装飾が少なくて、意味だけが浮き上がるところもいい。
特に、揺るがない双子のおばあちゃんの存在感が確かな支柱になっている。


彼女は、孫である双子が来たときから、「牝犬の子」と呼ぶ。最後まで一切、名前を呼ばない。


彼女は、戦争難民の群れが目の前を通る時、エプロンいっぱいに林檎を入れてわざと転ぶ。憲兵に段床でこずかれて血を流して気絶しても、毒づく。
「ふん、それでも何人かは食べられたわい、わしの林檎を」


彼女は、脳梗塞で身体がマヒして双子に介護された後、奇跡的に回復してから、双子に頼みごとをする。
「くだらない医療のかわりに、このびんの中身をわしの飲む最初のミルクの中に入れておくれ」
それでも一回は回復したのだからと躊躇する双子に彼女は泣き落としをする。
「そんなちょっとした手助けもしないなんて恩知らずだよ、わしは懐で蛇をあたためたようなもんじゃ」


打算的で働き者で口が悪くて一切感傷がない彼女の存在が、すさまじいくらいかっこいい。